恋人

・・・寒い・・・
ここはどこだろうか、あれからの記憶が全くない。
だが、確実に家ではないことはわかっていた。
俺は、ゆっくりと目を開けた・・・目の前には天井が見えるが、どうやら石みたいだ。
そしてゆっくりと体を上げた。
「・・・ここは、牢屋か?」
周りを見渡すと目の前には鉄柵がしてあり、そしてその先には獣人らしき影が見えた。
そして左隣には・・・奴が横たわっていた。
「おい、大丈夫か!?」
俺はすぐに抱き寄せた。
そうすると奴は少しずつ目を開け、俺の顔を見た。
「ここは・・・どこ?」
「俺にもわからんが・・・牢屋みたいだ」
そう言うと奴は軽く周りを見て、また俺の方に顔を向けると少し震えた声で
「・・・俺たちなにかしたのかな?」
俺はぎゅっと奴を抱きかかえた、あまりにも辛そうだったからだ。
「なにもしてないさ・・・なにも、悪くない」
そう言うと奴は胸に顔を埋めた、今はこうするしかなかった、俺も意味がわからなくて少し恐かった。
そしてこのままで少し居たら、前の牢屋にいる獣人の方から声がした。
「・・・お気の毒にな、可哀想に」
よく見ると俺より若い狼獣人だった。
「なにか、知ってるのか?」
俺は情報が欲しかった、この不安を取り去る決定的な情報を
「あんたら知らないのか・・・そりゃそうか、ついさっきだもんな」
その口振りで俺たちよりは長い間ここに居るみたいだ。
「・・・ここは王の奴隷房だよ、しかも殺し合いをさせる、な」
その言葉を聞いて俺は眼を見開いた。
「近々、新しい奴隷が来ると聞いていたが・・・まさか恋人同士なんてな」
俺はそんなことなど耳に入らず、ただ、こいつを抱きしめ、涙が流れていた。
殺し合い・・・なんで俺たちが・・・?
「多分、特別マッチが催されるだろうな・・・ここの人間は狂ってるからな」
俺たちがなんで・・・なにもしてないだろう・・・平凡に暮らしていただろう・・・
俺が・・・俺が悪いのか・・・?
「・・・・・大丈夫か?お前、顔色最悪だぞ」
俺はその言葉を聞いてやっと我を戻した。
「・・・俺たち、殺されるのか?」
俺はか細い声でそう囁くように聞いた、正直いって、今抱いているこいつが居ないとすぐにでも壊れてしまいそうだ。
「さぁな、下手をしたらお前ら同士で・・・」
そこで狼獣人は話すのを止めた、奴らにこれ以上負担を掛けてはいけないと思ったのだろう。
「まぁ、待てばいい、いずれ結論が出るだろう」
そう言うと狼獣人は俺たちとは反対方向を向き、横になった。
なぜだか知らないが、すでに恐怖感はなかった、多分これが吹っ切れた、という感じなんだろう。
「・・・恐いよ、恐い・・・」
俺の胸の方で声がすると思ったら、また奴が泣いていた。
「・・・大丈夫だ、俺が絶対守る、な?」
俺もさらに抱き寄せて言った・・・こいつだけは絶対に守ると決めて・・・・・・

「おい、お前ら、出番だ!」
そのままの体勢でぼーっとしていたら看守らしき人間が来た。
「出番・・・?」
そう言うと看守はニターッと笑いながら俺たちにこう告げた。
「ふっ・・・今日は王様がお前を出すと決めた、だから出てこい!」
そういうと看守は扉を開け、俺たちを強引に牢獄から出した。
「ほらこっちだ、逆らったら殺すからな?」
と言いながらナイフを取り出し俺の顔に突きつける。
俺は自分の身よりも・・・こいつの身を考えていた。
絶対にこいつだけは守るって決めた、だから傷なんて付けさせない。
「・・・なんでも従います、だからこいつだけは・・・」
俺はそう言いながらまだ抱いているこいつを両手で抱きかかえた。
それを見ると看守はまたニターッと笑った。
「それでいい、さっさとこっちに来い!」
そう言うと看守は俺の首に首輪を付け、ヒモで引っ張った。
今の俺じゃ、こいつに従うしかなかった、下手に手を出したら俺だけじゃなく、こいつも危ないからだ。
そして、少し大きく開けた部屋に着いた、目の前には入り口らしき門がある。
そして着くとまもなく看守がこう言った。
「・・・でだ、その人間を預からせて貰おうか」
俺はとっさにこいつをかばった、看守になにをされるかわからないからだ。
「お前はそいつを抱えて戦うのか?無理だろう?」
・・・確かにそうだ、こいつを抱えて戦うのは無理に等しい、だが・・・
俺は迷っていた、というより混乱していて意味が分からなかった。
だが、意外な形で答えはでた。
「・・・大丈夫だよ、俺なら」
そう言いながら彼は俺の胸から離れた。
そして、裾で涙を拭きながら
「・・・絶対負けないでね?負けたら俺・・・」
・・・なんだ、こいつの方が強いじゃないか
「・・・あぁ、大丈夫だ、お前は傷つけないっていっただろ?」
俺はこいつとキスをした、短いキスを
そして俺は覚悟を決めた、絶対に生き延びると・・・決めた。
「ささっ、さっさとこれ持って行って来い!」
看守はそう言うと俺の片手剣を持たせた。
俺はそれを右手に持ち、看守に言われるがままコロシアムの中へと入っていった。

大勢の観客の視線が俺に集まる、周り全てが人間で満ちあふれていた。
「・・・レディース&ジェントルマン!今宵は王様が主催する大会へようこそおいでくださいました!」
声のする方を見ると、司会者らしき者と、その横には王らしき者がいた。
「最初の一戦目は・・・現在13勝中!怒濤の勝ち上げを誇る悪魔の獣人!」
と言いながら出てきたのは
先ほどの狼獣人だった。
「なっ・・・お前は!?」
「・・・残酷だな、まさかお前と当たるなんてな」
狼獣人も、俺と同じ片手剣を持っていた・・・よく見ると血でさび付いている。
「そしてその挑戦者は・・・」
司会の声など聞かずに、俺は目の前にいる狼獣人を見ていた。
「お、お前・・・」
狼獣人は辛そうに目を逸らし、こういった。
「すまねぇな・・・俺にも待たせてる奴がいるんだ」
そう口ずさむと狼獣人は俺の方に剣先を向けた。
「お、お前・・・」
「おっと!すでに悪魔が標的を捕らえたようです!・・・では、試合始め!」
ゴングの音が鳴り響く・・・
俺はまだぼーっとしていた。
「せめて苦しまずにいけ・・・」
そう言うと狼獣人は剣先をぶらさず、俺の心臓目掛けて走ってきた。
俺はとっさに身構えて、寸前で回避した。
「くっ・・・なんでだ!なんでこんなこと・・・」
そう言ってる間にもう狼獣人は体を回転させ、こちらに向かってきていた。
「なんでか?・・・決まってるじゃないか」
そして俺の目の前に立ち、こういった。
「・・・殺される前に殺すんだよ!」
そして次の瞬間、右に持っていた片手剣を俺に振り下ろした。
「くっ・・・くそっ・・・」
俺は自分の片手剣でなんとか防御し、弾き、退いた。
だが奴がすぐ来るのは目に見えていた。
・・・殺るしかねぇのか、こいつを・・・
「うおぉぉぉぉ!」
・・・・・・殺るしか・・・ねぇんだ・・・
「・・・・・・すまん」
狼獣人が片手剣を振り降ろす瞬間、獅子獣人は相手の右手首を左手で強く握り、そして
狼獣人の腹に剣を突き立てた。
それと同時に、剣が突き刺さっていくと共に返り血が俺に降りかかった。
真っ赤で、ドロドロとした液体が俺の体を汚していく。
「が・・・あぁ・・・」
・・・そして奴が倒れた、それと共に周りからは拍手が響いた。
「大丈夫・・・じゃねぇよな・・・」
俺は奴の体から剣を抜き、上半身を抱きかかえた。
・・・もう長くないだろう、目は虚ろで、もう俺すら捉えれていない。
「・・・俺・・死ぬ・・だろ・・・うな・・・」
狼獣人はか細い声で俺に向けて放った。
突き刺した場所からは血が絶えず出続け、地面には血溜まりが出来ていた。
「すまない・・・本当に・・・」
・・・どうしようもなかった、ただ、俺には涙を流し、謝ることしか出来なかった
「・・・ゴフッ!」
狼獣人は口から血を吐いた、とても苦しそうで、見ていられない。
「・・あの子の・・・為・・に・・勝てよ・・・俺の・・分・・も・・・」
狼獣人は軽く目線を外に向けた・・・その先には俺の恋人がいた。
そして、その横には狼獣人の子供を連れ、泣き崩れている人間の女がいた。
「まさか・・・」
「・・・俺の・・ガキだ・・・可愛い・・・だろ・・・?」
うそだろ・・・こんな・・・
「なぁ・・・もし・・・奴に顔・・・合わせ・・れた・・ら・・・伝え・・てく・・れ・・・」
お願いだ・・・・・・嘘だと言ってくれ・・・
「愛してるって・・・・・」
その瞬間、狼獣人が息をしていないのがわかった。
俺は、殺してしまったんだ。
「なんとっ!勝者は挑戦者だああぁぁぁぁぁぁぁ!」
コロシアム内に歓声と怒濤の声が響き渡った。
その中、俺はずっと狼獣人を抱いていた。
この、消し去ることの出来ない罪悪感を一緒に抱きながら・・・


俺は狼獣人の遺体を持ち上げ、妻子の元に行った。
「・・・すまない・・・」
女はまだ泣き崩れていた・・・今の俺が掛けれる言葉なんてなかった。
そして俺が膝を折り、狼獣人を降ろした時だった
子供が近づいてきた。
「・・・お父ちゃん?お父ちゃん?」
・・・・・・
「・・・寝てるんだよね?起きてよ!お父ちゃん!」
・・・・・・
「お父ちゃん!お父ちゃん」
・・・・・・
「・・・遊んでよ・・・お父ちゃん・・・」
・・・俺はもう見てはいられなかった・・・心が・・・心が潰れてしまいそうだ。
なんでこんなことを・・・なんで・・・なんでッッ!!
「・・・大丈夫か?」
そう言って、肩を抱いてくれたのは俺の恋人だった。
「なぁ・・・俺どうしたらいいんだ・・・」
俺は泣きすがるように聞いた。
「・・・俺にも、判らない・・・だけど」
「あの人の死、無駄にしたら・・・いけない気がする」
そういいながら狼獣人の亡骸を見つめていた。
・・・そうだよな、ここで終わっちゃいけねぇよな・・・よし
「・・・そうだな・・・ちょっと話、してくる」
俺はそう言い、未だ泣き崩れている女の元に行った。
俺は勇気を出して、話しかけた。
「お前が・・・こいつの妻か?」
そう言うと女はこっちを見ずに軽く頷いた。
「・・・こいつから、死ぬ前に伝言を預かっている」
突如、言い終わった瞬間女は涙でぐしゃぐしゃになっている顔をこちらに向けた。
「なに・・・?」
俺は面を合わせた、そして
「・・・愛してる、と」
「!!・・・あなた・・・」
女は狼獣人の亡骸に抱きついた、そして泣くのを止め、立ち上がった。
「・・・伝言、ありがとうございます・・・獅子獣人の方」
大分冷静を取り戻したのか、綺麗な言葉使いをして、礼をした。
「・・・夫の分まで、お願いします・・・」
「はい・・・無駄にはしません」
そう言うと彼女は少し微笑み、夫の側に行き、座り込んで子供を抱きかかえた。
・・・絶対に無駄にはしない、絶対に・・・

「はぁっ・・・はぁっ・・・」
もうあれから何戦と戦っただろうか、すでに疲労がピークに達していた。
あれから幾つもの種族の者達と戦った・・・
だが、偶然にも全てが突きをしなかったお陰でなんとかここまで勝ち上がってこれた。
・・・何度泣いたかも覚えていない。
「おらぁ!」
今俺の目の前にいるのは体が俺の倍はあるんではないだろうと思うくらいの猪獣人だ。
そいつの武器はなぜか斧だった・・・今まで片手剣しか見てこなかった。
「ぐっ・・・」
それに、パワーの差がありすぎていつもの戦法は出来なかった。
手首を掴み上げ、その隙に突き刺す・・・これが俺の必勝パターンだった。
それが効かない事もあってか、俺は少し焦っていた。
「おらおらぁ!」
俺は寸での所で避けた・・・奴が斧を地面に落とすとそこの地面が抉られる形になる。
あれを俺が受けたらと思うと・・・ゾッとした。
「くそっ・・・なにかいい方法は・・・そうだ」
俺は一つの案が思い浮かんだ、それは出来るだけ使いたくない手だったが・・・
ここのコロシアムの地面は乾燥した砂だ・・・そうだ、地形をうまく使えばいい。
俺はそう思うと奴から少し距離を取り、瞬時にコロシアムの砂を左手に掴んだ。
「げへへ・・・終いだ!」
そう言うと奴は斧を振りかぶった・・・この瞬間を待っていた。
俺は斧が振ってくるだろう位置から相手の顔側に移動し、そして
奴の顔に向かって砂を掛けた。
「ぐっ!?ぐぐぐぐぐぐ・・・」
どうやら目に入ったようだ・・・一粒一粒が荒いここの砂は、目にはいると痛いだろうな。
俺はそうして奴が目を押さえている所を狙って・・・腹に突き刺し、切り上げた。
その行動をした瞬間、俺は剣を置いてそこから逃げた
返り血がすごいことが目に見えていたからだ。
「なぁっ!?・・・いでぇ!いでぇよ!!」
奴はそのまま倒れ込み、剣の切り口からは血が噴射する様に出ていた・・・逃げていて正解だった。
そして、そのうち奴は動かなくなった・・・これで何人殺しただろうな。
だが涙はでなかった・・・こいつは殺戮を楽しんでいたから。
「おーっと!挑戦者、とうとう・・・」
いきなりアナウンスが途絶えた。
席を見ると、王が司会者に何か話していた。
そして話終えると司会者はまたアナウンスを始めた。
「・・・ここで王からの催しがあります!特別マッチです!!」
・・・特別マッチ?一体なんのこと・・
「挑戦者は、次の試合に勝てたら、なんと!自由の身になれます!!」
「・・自由の身・・・?」
俺は一瞬聞き間違えたのかと思った。
だが、確実にそう言っていた。
「この特別マッチでは賭レートが2倍になります!さぁ、どうぞ!!」
次の試合に勝てばやっと、やっとこの地獄から解放されるのか・・
俺はそう思うと少し肩の力が抜けていった。
次で・・・そう思うと俺は、うれしかった。

これが最後の死合・・・死なねぇようにしねぇとな
「・・・絶対、守るからな・・・」
俺は左手で握り拳を作り、小さくガッツポーズをした。
そして、俺はコロシアムへと出た。
「出てきました!現在14連勝中の悪魔の挑戦者!」
・・・アナウンスはもう聞こえていなかった。
「そしてっ!この特別マッチの相手はっ!!」
反対側の門がゆっくりと開き始める。
俺は・・・もう準備は出来ていた。
どれだけ強い相手でも、絶対に殺してみせる、自由を掴んでみせる。
俺はそう覚悟していた。
・・・・・・・・・・・だが、その覚悟も一瞬のうちで打ち消された。
・・・相手は
           俺の恋人だった。

「・・・うそだろ?」
俺は突然の事に唖然としていた。
自由に・・・自由になれるって・・・
俺は王が居る方を睨んだ・・・・・・あいつ、笑ってやがる。
「・・・ねぇ」
小さい声で奴が囁く、俺はそれを聞き逃さずに応答した。
「なんだ・・・?」
「・・・俺を、殺して」
俺は眼を見開いた、心臓も、ばくばくと鳴っている。
奴は小さいナイフを持っていた、どう足掻いてもあれじゃ剣には勝てないだろう。
「ッッ!!なにいってんだ!」
奴は涙を流しながら、手を振るわせながら言った。
「・・・だって、俺が死ねば・・・お前が自由になれるんでしょ・・・?」
「なら・・・俺を」
「ふざけんなあぁぁぁぁ!!!」
俺は今まで出したことがないくらいの声で怒鳴った。
「殺せる訳ねぇだろうが!!あ!?俺はなぁ!!俺はなぁ!!」
いつの間にか涙が流れていた。
俺は片手剣を投げ捨てた。
そして、奴に近づいた。
「・・・お前を傷つけたくないんだよ!!」
奴の肩を持ち、面を合わせた。
多分、今の俺の顔酷いだろうな・・・涙でぐっちゃぐちゃになってるのが自分でもわかる。
「・・・わかってる、わかってるけど・・」
「この死合はどちらかが死ぬまで続く、そう聞いたんだ・・・そして」
「・・・両者とも、殺し合いをしないと、王の命令で、ここに猛獣が放たれる」
彼は真っ直ぐ俺を見て、そう告げた。
・・・もう俺たちに残された時間は余りないってことかよ・・・
「・・・俺が死ぬ、お前は・・・」
俺はナイフを見て言った・・・一刺しで死ぬくらいの殺傷能力はあるだろう。
だが、絶望的な答えが返ってきた。
「・・だめだよ、俺が死なないと・・・きっと俺が生きても王は俺を殺す、そう思うんだ」
「だったら俺を殺して自由を得れるお前が生き残った方がいい・・・こうするしかないんだ」
・・・俺は目の前が霞んだ、信じられなかった。
・・・俺たちがなにかしたのか・・・?
「ごめん・・・」
ただ・・・二人で平凡に暮らしたかっただけなのに・・・
笑いながらさ・・・毎日まずい野草喰ってさ・・・
「だから俺・・・」
・・・それでも奴が料理してくれたらどんな物でも食べられた。
どれだけ貧乏でも・・・こいつと一緒なら幸せだった。
・・・・・・なぁ神様、もう一度聞く
「・・・死ぬよ」
・・・俺たちがなにかしたのかあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?


・・・気付いたら、俺の恋人は倒れていた。
・・・・・・触ってみたらもう、冷たかった。
・・・もう、あの声を聞くことは出来ない。
もう、あの料理を食べることも出来ない。
もう、あの背中姿を見ることも出来ない。
もう、あの喜んだ顔を見ることも出来ない。
もう、愛し合える事すら出来ない。
もう・・・もう・・・あいつはこの世にいない。

俺の中の、何かが切れた。
その瞬間から・・・意識が飛んだ。。。




・・・ヒュー・・・ヒュー・・・
風の音がする・・・とても優しく俺を撫でる。
・・・俺は一体・・・どうなったんだ・・・?
俺は、ゆっくりと目を開けた。
「・・・・・・・・ここは・・・」
周りを見ると、ここは崖みたいだ
そして目の前には・・・俺が住んでいた町の残骸があった。
コロシアムだったと思われる建物・・・だけじゃなく、街、全てが壊滅していた。
そして・・・横には俺の恋人の亡骸が横たわっていた。
「・・・やっと、起きましたか?」
俺が奴を抱き寄せようとした時、後ろの方から声がした。
そして振り返ると・・・あの狼獣人の妻と子供がいた。
「お前は・・・これは一体・・・」
「色々あったんですよ・・・あなたの恋人が死んでから」
そう言うと彼女はもう残骸と化している街を指さした。
「・・・あれ、あなたがやったんですよ?」
俺は、彼女の言葉の意味がわからなかった。
「本当に、覚えてないみたいですね・・・」
「んとね!獅子のお兄ちゃんが、突然光ってぇ」
子供が楽しそうに話すが・・・俺が光ってだと?
「こら!余計に混乱しちゃうでしょ!」
彼女は子供を叱り、自分の横に居るように言った。
子供はと言うと、すこししょげくれた顔をしている。
「・・・まぁ私も余り覚えてないんですよね・・」
「本当にあなたの体が真っ白に光って、そしてその瞬間、目を閉じて、開けたらもう街は・・・」
・・・信じられない話だが・・・やはり信じられない。
俺にはそんな力なんてないし、それに光って・・・
「・・・起きたか?」
・・・狼獣人・・・?
「あ、あなた、えぇ、今話をしてたの」
・・・まさかな・・まさか・・・
「お、よう、まさかまた会えるなんてな♪」
・・・確実にあの狼獣人だ、奴って死んだんじゃ・・・
「・・・なぁ、ここは天国か?」
「はぁ?・・・そんな訳ないだろうが・・・ほらよっ!」
パシーン、と音が響く、頬を思い切り叩かれた、痛・・・い・・・?
「痛い・・・?」
俺が豆鉄砲を喰らった鳩みたいな顔をしていると狼獣人は
「ここは、現実だ、わかるな?」
俺は軽く頭を振り、質問をした。
「な、ならなんでお前生きて…」
答えは簡単にでた、というより予想すらつかなかっただろう。
「あぁ、確かに死んだんだがなぁ・・・」
狼獣人が悩んでいたら、後ろから子供が飛び出して
「・・・ここで泣いてたら、竜の顔したお兄ちゃんが飴玉くれたのー!」
そう言うと、子供はポケットから透明な包み紙に包まれた飴玉を一個取り出した。
「2コくれたから獅子のお兄ちゃんにもあげるね!」
俺はそれを受け取った・・・不思議な色をしている。
虹色でもなく、かといって混色でもない・・・すごい独特な色だ。
「それね!お父ちゃんにあげたら起きたの!」
俺はもの凄い勢いで子供の方を向いた。
「それは本当か?!」
子供は無邪気な笑顔でこう答えた
「うんっ!」
俺はその答えを聞くとすぐに奴の口の中に入れた。
不思議なことに、飴玉は口内に入った瞬間、一瞬で溶けた。
そして・・・
「ううん・・・ここは?」
俺の恋人は目を覚ました、俺は有無を言わさず抱きつき、キスをした。
「よかった・・・よかったよかったよかった!!!!」
「ちょ・・・痛いよ〜」
俺は本当に心臓が飛び出る位にうれしかった。
もう死んでもいい・・・いやそれはいやだ。
「・・・ねぇ、俺って死んだんじゃ・・・確か俺自分で胸にナイフを・・・」
「全部、こいつのお陰だ♪」
そう言うと俺は子供の頭を片手でわしゃわしゃとした。
子供は少しうれしそうな顔をして
「竜の顔したお兄ちゃんが飴玉くれたんだ!」
「竜・・・まさか!?」
そう言うと奴は思いだしたかのように周りを見渡し。
「もうその人は居ないんですか?」
「うん、飴玉くれたら扉がぶわぁ〜って出てきて、入ってたよ〜」
それを聞くと少し落胆した様子で
「そうですか・・・」
俺は少し気になり、聞いてみた。
「・・・知ってるのか?」
そう聞くと奴は俺に抱きついて、空を見あげながら
「・・・うん、多分だけど」
「・・・聖竜ジオリュース、この世でもっとも神に近い存在って言われてるんだ」
「そして、その聖竜は、人の形で動く・・・いわば竜人」
・・・久しぶりにこいつのキラキラした目見たな。
「まぁ・・・聖竜だかなんだかしらねぇが」
俺は奴を抱き寄せた、そして
「・・・生きて、よかった」
「・・・うん」
奴は軽く頷いた・・・前をちらっと見ると奴らは少し遠くにいた。
空気を読んでくれたのかは知らないが・・・そして俺は思いだした。
「・・そうだ、お前に渡してぇもんがあるんだ!」
そう言うと俺は腰に掛けている袋の中から綺麗に包装され・・・ていたはずの箱を取り出した。
・・・中身大丈夫だろうな、大丈夫なんだろうな。
「どうしたの?それ?」
俺はドキドキしながら相手の前で箱を持ち上げた、そして
「・・・誕生日、おめでとう!!」


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