恋人

「いってらっしゃい、気を付けてな」
「おう!稼いでくるわ♪」
昼の4時過ぎ・・・そう言い、キスをする・・・もうこれは習慣になっていた。
俺は上機嫌で扉を開けた、まだ夏場のせいで日差しがチリチリと肌にまとわりついてくる。
「ふぅ・・・暑いな」
だが、俺はそんなことは気にせず、ここから一時間位かかる仕事を提供してくれる場所に向かった。
そこの主人は人間だが、俺みたいな獣人にも秘密で仕事を回してくれていた・・・昔から世話になっている。
だがあそこは正規の店ではない、だからか、時々[殺し]や[盗み]の仕事も来ていた。
さすがに俺は受け入れなかったが・・・報酬金が高い分、意外と競争率も高かった。
俺はふと、昨日の仕事の事を思い出した。
「家に帰れ」という仕事、その時は金に目が眩んで受け入れてしまったが・・・
今思うと少し違和感があった。
殺しや盗みなどは報酬金自体がずば抜けて高い、だがそれすら余裕で越える額だった。
それに、今回は依頼者が不明と書かれていた・・・殆どの場合は書かれている。
・・・・・・俺は少し悪寒がした。
理由はわかっていた、この城下町の上に建っている城の王だ。
近頃、噂だが、殺し合いをさせすぎたせいか、奴隷の数が激減したらしい。
そして王は奴隷・・・獣人達を探し回っているらしい。
恐ろしい噂だが・・・・・信じてはいなかった、というより信じたくはなかった。
だが、実際に近頃、よく仕事を提供されていた獣人達の数が減った気がする・・・気のせいで合って欲しいが。

こんなことを考えていたらいつの間にか店の前まで来ていた。
外壁には蔦が回っており、扉もボロボロ、おまけに窓に少しヒビが入っている。
とても綺麗とは言い難いが、ここ数年、この店のおかげで食いつなげれてきた。
「おいっす、店長」
俺は扉を開け、入ると先にカウンター先にいる店長に声を掛けた。
すぐにでも仕事を提供して貰う為だ、いい仕事はすぐに無くなってしまう。
「お、お前か・・・今日はな・・・」
?・・・なぜだろう、今少し慌てた気がした。
その後店長はすぐカウンター下に潜った・・・確かあそこには段があり、そこに依頼書が並ばれている。
実際には見たことないからわからないが・・・気にする事もなかった。
「いい仕事くれよ〜、稼ぎてぇからな♪」
俺はカウンター前に座り、肘を乗せ待っていた。
「・・・これだな、[配達]だ・・・報酬は1000ゴールドだ。」
「昨日の仕事と比べたらしけてるな・・・」
昨日の仕事はこれの2、3倍はあった、それを考えると少し嫌だったが
次の言葉で俺の答えは決まった。
「・・・依頼者からだが、手取り1000ゴールドで、配達先は・・・南地区54-12だ。」
その番地には聞き覚えがあった・・・そう、俺の、いや、俺たちの家だ。
「そこって俺の家じゃねぇか、一体誰が・・・」
贈り物を受けれるほど俺たちは人脈は無かった、そう考えると一体・・・
「依頼者は不明、帰るまで開けるなとよ・・・受けるか?」
俺は少し考えたが・・・自分達の家に帰るだけで1000ゴールド貰える、条件は最高だった。
「あぁ、受けさせて貰う、自分たちの荷物だしな」
そう言い、俺はさっそく依頼書にサインをつけた。
これで依頼を受けた事になる、先に俺は1000ゴールドを貰い、袋に入れ、そして次は綺麗に包まれた箱を渡された。
「あまり揺らすなよ?結構壊れやすいらしいからな」
俺は店長に向かって頷くと扉を片手で開け、出ていった。

バタンッと音が鳴り、静かになった店内で店長は何故か泣いていた。
そしてその手にはついさっきと同じ、獅子獣人に渡した依頼書が握られていた。
だが、その依頼書にはサインはされていなかった・・・だが何故か依頼者の名前は書かれていた。
そしてその依頼者の名前は・・・[国王]であった。
「・・・すまねぇ、従わねぇと俺も殺されるんだ・・・すまねぇ・・・」


「そういや今日は奴の誕生日だったな・・・」
毎日仕事尽くめで忙しかったせいで今日の今日まで忘れかけていた、実際付き合い始めてまだ一回も祝ったことがない。
毎年、余裕がなくて買えないせいでもあった、なので誕生日は基本祝っていない。
「だけど今日は・・・♪」
袋をちらっと見た・・・先ほど報酬として貰った1000ゴールドだ。
「昨日あれだけ儲かったんだ・・・こんな特別な日くらいいいだろう!」
と、右手でガッツポーズをし、とある場所に向かった。
家に帰る道にあるアクセサリーショップだ、ここは少し高いと有名な所だ。
俺は全身をボロボロのコートとフードで隠し、店に入った。
見たところ、獣人とはまだ気付かれていないようだった。
「・・・(さて・・・探すか)」
そう思うと俺はペンダントが並べてある場所に行き、ある物を探した。
・・・滅多にない獅子が彫られているペンダントだ。
安い店は全て見たが、まだ見たことがなかった。
「・・・(・・・やはりここにも・・・!!)」
俺の目線の先には・・・綺麗に彫られている獅子のペンダントが光り輝いていた。
よく見ると二つある、ペアみたいだ。
そして値段は・・・1000ゴールドと書かれていた。
「・・・(・・・・・・今日の儲け全て飛ぶな)」
俺は悩みに悩んだが、誕生日を祝ってやりたかった。
そして俺は少し震える手でその二つをレジに持っていった。
「・・・頼む」
そう言うと俺は手袋をしている手で店員に渡した。
「・・・あの、お客様」
「な、なんだ?」
俺は少しビクついた・・・ばれたか?
「・・・プレゼントですか?よろしければ包装致しますが。」
・・・少しほっとした。
「あぁ、頼む、今日は恋人の誕生日なんだ」
「ふふ・・・そうですか」
そう言うと店員はペンダントを箱に入れ、器用に包み、ラッピングした。
最後にかわいらしいリボンを付けて、出来上がりだ。
「これでよろしいでしょうか?」
「あぁ、ありがとう、代金は?」
「現在包装は無料とさせて頂いてますので、商品代金の1000ゴールドですね」
それを聞き、俺は袋の中から1000ゴールドをジャラジャラと出し、店員に渡した。
「・・・確かに、丁度頂きました、ありがとうございました〜」
俺は軽く礼をして店を出た、久々に店長以外のいい人間を見た気がした。
そして俺は、ペンダントの箱は袋の中に入れ、家へと急いだ。
「・・・獣人なのバレバレなんだけどなぁ・・・ま、いっか」
そう言うと店員は次のお客を来るのを待った。

俺が家の近くについた時にはもう空は軽く暗くなっていた。
「早く帰ってやらねぇと心配するな・・・」
そう言いながら俺は二つの箱を持ってニヤニヤしていた。
一つは依頼の箱、そしてもう一つはケーキの箱だった。
「奴、甘い物好きだからなぁ・・・飛んで喜ぶだろ♪」
そう、奴は甘い物が好きだった、時々儲けが高かった時、二人でケーキを買って食べていた。
だが、近頃は余りお金に余裕が無くて買うことはなかったが・・・今日位は!と思って小さいショートケーキを二つ、買って来た。
今でも奴の喜ぶ顔が浮かぶ、それを思うとすぐに帰りたくなった。
「走れねぇが・・・まぁ後少しだ」
そう言うと曲がり角を曲がって、突き当たりを歩いていた。
そしてあのボロボロの家が、俺たちの家だ。
俺は勢いよく扉を開けた、早く奴の顔が見たかった。
「たっだいま!」
奴は毎日変わらず、針での作業をしていた。
そしてすぐにこっちを向く。
「おかえり・・・ってどうしたのその荷物?」
俺はそう言われるとニヤニヤしながら依頼の荷物は小さいテーブルに置き、ケーキの箱は奴の目の前に置いた。
「へへっ・・・開けてみな?」
「えっ・・・うん」
俺がそう言うと奴はゆっくりとその箱を開けていった、少しずつだが、甘い香りが広がっていく。
よく奴の顔を見るとすでに笑顔が溢れていた。
「ケ、ケーキじゃないか!?どうして今日に・・・」
「・・・今日はお前の誕生日だろ?だからだよ♪」
俺がそう言うと奴は思いだした様に顔を上げ、俺に抱きついてきた。
「・・・覚えててくれたんだ、俺の誕生日なんて」
奴は俺の胸に顔を埋めながら言った・・・泣いているのだろう、胸が少し濡れている。
俺は奴を両手で抱き、こう言った。
「当たり前だろ?恋人の誕生日は忘れねぇよ♪・・・それに、当分祝えてなかったからな」
そう言うと奴は涙でぐしゃぐしゃになってる顔を俺に向けて
「ありがとう・・・ありがとう・・・」
「へへっ・・・ほら、もう泣きやもうぜ?ケーキもあるんだしよ♪」
俺は少し奴を引き離し、顔を向けた。
そう言うと奴は裾で顔を拭き、また俺の方に顔を向けると
「・・・うんっ!」
と言い、食器棚からフォークを取り出し、椅子に腰掛けた。
俺も腰掛け、フォークを渡された。
「皿に置くのもあれだし・・・突っつこうか?」
箱の中にはショートケーキが二つ、並べられていた。
確かに、これだけなら別に皿を用意することもないだろうと思い、俺は
「そうだな、洗い物増えるしな♪」
「おっ、わかってるじゃないか」
そう言うと奴はさっそくケーキを小さく切り、フォークで刺した。
そしてそのフォークを俺の口に向けた。
「はい、あーん♪」
俺も同じようにケーキを切り、フォークに刺し、奴の口に向けた。
「せーのでな?せーの・・・」
「うん!せーの・・・」
パクッ、と音がするんじゃないかと思うくらい同時に相手のケーキを食べた。
なんだかそんな風景が少し笑えてきた。
本当、どこのバカップルだよ、って思うくらいに
「・・・ははっ!」
だけど、幸せだった、なにより奴の笑顔を見るのが
そして生き甲斐だった、こうやって奴と居ること自体が
「ふははっ!」
どれだけ貧乏してても辛くはなかった
・・・こいつが側にいてくれたから
「ふぅ・・・なぁ、あっちの荷物はなんなんだ?」
どんなに苦しい日でも、こいつがいるだけで毎日が幸せだった。
本当に、こんな日が毎日続けばいいと思っていた。
「あぁ、あれか、あれ俺たち宛みたいなんだよな・・・開けてみるか」
・・・今の俺たちには予想すら出来なかった。
「俺たちにか?・・・なんだろうな」
この幸せが、ある男によって、うち崩される事を
「よしっと・・・なんだこれ!?」
その箱を開けた瞬間、その箱から白い煙が立ち上った。
「白い煙・・・?・・・」
その白い煙は俺たちの家をすぐにその煙で充満させた。
そして奴がいきなり倒れ込んだ。
「!!危ないっ!」
俺は倒れる前にすぐに抱きかかえ、そして扉へと向かった。
相手が煙なら外に出れば逃げれると思ったからだ。
だが・・・扉をいくら押そうとしても押せなかった。
なにか、外側からすごい力で押されていた。
「くそっ・・・一体なにが・・・」
俺は掠れていく意識の中、奴を抱いていた。
「こいつだけは・・・なにがあっても・・・・・・」


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