戦争



――ギィィ・・・
意外と扉は軽く、最後の扉にしては安易に思えた。
中を見渡すと見えるのは一つの椅子「のみ」だった。
「てめぇが親玉か・・・?」
少し尖ったような声で熊獣人は椅子に居るであろう相手に問いかける。

・・・・・・・・だが、まるで反応がない。
いや、だが確かに開ける前には殺気が通っていた・・・
俺は銃を一応構え、椅子に近づいた。
「・・・・・・!」
答えは簡単だった・・・

        ―――すでに、事切れている。

しかも白骨化と言うのか、すでに身は削ぎ落ち、ほぼ骨だけの状態だ。
見た目だけで言うなら犬獣人、熊獣人辺りだろう。
「どういうこった・・・」
その言葉を聞き、後ろに居た二人も走ってきた。
「おいどうし・・・これは・・・」
相方も目をキョトン、としたまま止まってしまった。
そりゃそうだ、元々ターゲットだった「こいつ」がすでに事切れてかなりの時間が経っているんだ、しょうがないだろう。
だが、どうして・・・事切れているなら何故俺たちに・・・?

――自動認識プログラム発動、識別行動に入ります――

そう、アナウンスが流れた瞬間、俺たちの、椅子の少し前に何かの物体が現れた。
だが、俺はその物体に何か思い当たる節があった。
一つは・・・顔
一つは・・・持っている武器
そして・・・竜人だ、しかもさっき倒したばかりの・・・「奴」
だが、見た目はもう

     ――人ではなかった。

「あなた達に問う、あなた達は、テキ?」
 
まるでロボットが話すように問いかけてきた、先ほどとは全然違う様に見える。

「敵・・・と言ったら?」
    ――・・・前面にいる生命体を不穏物質と暫定、消去作業に入ります。

「・・・相棒、そのガキと隠れてろ、こいつは俺が―」

      ――バシッ

俺がそう言った瞬間、何かに左手を掴まれた。
・・・相棒だった。
「な、なにやってんだ!早く―」
「・・・俺に、任せてくれ。」
・・・・・・はぁ?
「お前、武器も何にもねぇだろうが!いいからさっさと――」
 
        ――ガスッ・・・ビュンッ
 
俺がまた言いかけた瞬間、俺の体は宙を舞っていた。
そして、壁に叩きつけられる。
「ってぇぇな!・・・・・・?!」
俺は・・・自分の目を疑った。
「だ、大丈夫ですか?」
そう言いながら近寄るガキには目もくれず、俺はただ、相棒を見ていた。
だって・・・奴の・・・奴の右手が・・・

・・・機械になっていた、今までちゃんとした皮膚が纏っていたその右手が。

「お、お前その右手は・・・」
「説明は後だ、今からこいつを〔助ける〕」

俺はそう言うと、右手を横一線に一振りし、不可視のバリアを全身に張る。
およそ、こんなのは彼女にとってはただのおもちゃだろうが・・・少しは守ってくれるだろう。

  ・・・・・・いくぞ、ワルキューレ

   ――戦闘を、開始します。

まず、先手は彼女からだった、前方から弾幕が襲いかかる。
俺はそれを右手を一振りし、真空の刃を作り、全て蹴散らす。
次は俺だ、地面を両足で蹴り飛ばし、勢いよく彼女に近づく・・・が、すでにそこには彼女の姿はなかった。
・・・俺は咄嗟に後ろを向き、右手で十字を描いた。
「・・・損傷」
描いた十字は高圧縮されたエネルギー体、やはり来ていた銃弾を切り裂き、彼女に当たる。
だが、殆ど傷は受けていないだろう、彼女自身、見に纏っているプロテクターの様なものにシールドを張り付けられている。

そしてすぐに彼女は攻撃を再開した、無慈悲な位に降り注いでくる銃弾の雨、俺は再度右手を一振りし、銃弾をかき消す。
彼女が着地した瞬間、俺は右手の掌を上に掲げ、まるで槍の様なエネルギー体を作り出した。
そしてそれを彼女に投げかけた・・・当たりはするが、先ほどと同じ結果だ。
「無駄、どうして抗うの?」
彼女は再度銃を構え、俺に撃ち放ちながら言った。
「お前を・・・助けたい・・・からだぁ!!」
俺はそう言いながら十字を作り、弾を消した後、俺はその十字の真ん中を右手で殴った。
十字は俺の右手に纏われ、そして俺はそのまま
 
    ――彼女の体に右手をめり込ませた
 
・・・手応えはある、ダメージは・・・・・・
そう思った時だった

「おい!!逃げろ!!!!」

後ろから相棒の声がした、俺は俺の状況を確認する。

     ―――バンッ・・・
 
急に、腹部に激痛が走った、まるで焼かれるような痛さ。
「なっ・・・くそっ・・・」
俺は両足で地面を蹴り、彼女と距離を取った。
そして片足を着く・・・痛みが邪魔をして集中出来ない。
「あなたには無理、私は倒せない・・・・・・死んで。」
そう言いながら彼女は俺に近寄り・・・頭に銃口を向け・・・そして
 
   ―――バンッ・・・バンッバンッバンッ!!
 
 
 
・・・何故だ、痛みはない・・・これは・・・
俺は目を開ける、そして上を向くと・・・

      ――彼女が泣いていた、どうしてなのかは・・・わからない。
  
そして、彼女が持っていた銃は、遠くに転がっていた。
俺はふと相棒の方を見る・・・答えは簡単だった。
 
「機械内にバグが発生、自立行動、不可、敵殲滅、失敗、エラー、エラー、エラー・・・システムを再起動、不可、不可・・・本体に損傷・・・無し・・・システムを強制終了させます」
そう彼女が言うと、彼女は倒れてきた。
俺は彼女を受け止める、機械のせいか、とても重い。
「・・・おい、大丈夫か?」
横から相棒が声を掛けてきた。
「あぁ、少し腹が痛いが・・・大事には至っていない、それよりも彼女を・・・」
俺はそう言うと彼女を寝かせ、頭の部分の機械にあるシステム回路をひっぺ返した。
「・・・よかった、まだ間に合うぞ・・・」
俺はおもむろに未だ機械化している右手の人差し指を回路の中に入れ、信号を送った。
(・・・強制離脱を開始せよ、この生命体から離脱せよ・・・)
その信号を送った瞬間、彼女に纏っていた全身の機械が彼女から崩れ落ちた。
「・・・どういう事だ、色々説明してもらうぞ」
俺の相棒は少し驚きながらも、鋭く突いてきた。
そして俺の相棒の横にいるあの子供は彼女を揺さぶっている。
「まぁ待て、時間はいくらでもある。」
俺はそう言い放つと彼女から崩れ落ちた機械を手に取った・・・
「・・・おおよそ、ナノマシンで一部制御されていたのが、何かの衝撃で彼女の体を完全に支配したようだな・・・今は無事だが」
「・・・(まさか、な・・・)」
熊獣人は少し動揺した、もしかしたらあの食堂の一撃で・・・
「そして、おおよそこのナノマシンを取り付け、開発したのがここの親玉だろう・・・」
竜人は淡々と語る。
「どうしてそこまでわかるんだ・・・?」
熊獣人は不思議そうに聞く。
「・・・先ほど、ナノマシンの中にある記憶を辿ってみた・・・今までの記録データ、そして、彼女の過去の記憶を――」
そう言いながら竜人は犬獣人のそばに寄る。
 
          「・・・お前の、母親だ。」
 
 
犬獣人は無表情で涙を流していた。
「ぼくの・・・お母さんじゃな・・・い・・・だって・・・僕・・・」
 
 「・・・思い出すんだ、お前が生きていた事を!」
 
    「い、いや・・・頭が・・・痛い、痛い、痛い・・・」 
 
 
『お前は今日からここで戦うんだ、いいな?』
 
         『人を殺すのが恐いだと?もう一度言ってみろ!!!』
 
『助け・・・ギャァ・・・』
              『よく殺った、さぁ、次だ!』
 
               『いいぞ、そうだ、理性なんて忘れて殺してしまえ!!』
 
『・・・ゲフッ・・・まさか俺が狙われるなんてな・・・』 
 
          『最後に・・・お前に良いことを教えてやろう・・・』
 
 
               『お前の・・・親はな・・・・・――』 
     
      
                「だって僕は・・・僕は・・・・・・」
 
                 ―――ピキュン・・・・・・・・
 
 
                 「・・・おかあ・・さん・・・?」
 
                「・・・・・・お帰り、―――――
 
 
 
 
 
 
 
 
「さて、どう落とし前つけてくれんのか?あ?」
俺は依頼請負人が座っている机を蹴り飛ばす。
そりゃ今回の仕事でかなりの出費が出たし、勿論今回の報酬で間に合うはずがない。
それに、割に合うかこんな仕事っ!!
「そ、それはですね・・・わ、私にもよくわかっていないのです。」
「む、それはどういう事だ?」
そこに俺の相棒が口を挟む。
「もう終わった事なので言ってしまいますが・・・後日、下の者に金を受け取りに行かせた所、この依頼を頼んだ人が、すでに死んでいるのを確認したらしいのです・・・白骨化して」
俺は奴の胸ぐらを掴んだ、そして上にあげる。
「そりゃどういうこった?俺たちは亡霊にでも踊らされてたってのか?」
「おい、やめておけ」
そう言いながら相棒は俺から依頼請負人を剥がした。
「・・・もしや、それは―――か?」
「・・・・・・はい、確認は取れています。」
・・・俺はため息を一つ着いた。
依頼人が死人じゃ、これ以上の金額は望めねぇだろうし・・・はぁ
当分は、細々した仕事か・・・

「?・・・こいつ、わかってないのか・・・」
竜人は落ち込んでいる熊獣人を見て、少しにやりとした。
「まぁ、金は所定の銀行に頼む」
「はい、かしこまりました・・・またよろしくお願いします。」
 
そして俺は外に出る、勿論扉は・・・蹴り破ろうとしたが、これ以上すると相棒から何か来そうなので普通に開けた。
 
            「「おかえりっ!」」
 
はぁ・・・今後はこいつらの分の金も稼がないと思うと、気が滅入る。
 
          だが・・・まぁ、いいか。
 
             「帰るぞ!」
 
 
 
〜終わり〜
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