雨
「お〜い、帰ったぞ・・・どうした?」
ヴェルは両手に荷物を抱えて帰宅した。
扉を開けて、俺から見て部屋の左側の窓の前にゼルが立っていた。
少し、涙ぐんで。
「えっあっ・・・おかえりなさい」
ゼルはそう言うと窓から離れ、ヴェルの元に行き、頭をペコリと下げた。
「あぁ、ただいま、なにしてたんだ?」
俺は片方の荷物を置き。
ゼルの頭を撫でてやるとどうして窓際に居たのかを尋ねた。
「あ、えと・・・外、綺麗だなぁって思って・・・」
ゼルは少し申し訳なさそうに答え、少しもじもじしている。
「ん、あぁ・・・もう夕方だしなぁ、夕焼けの事か?」
「夕焼け・・・?あのキラキラの事?」
ゼルは窓の方を指さし、答えた。
「あぁ、そうだ・・・時間、わかるか?」
「時間・・・すいま・・・わからないです・・・」
ゼルは少し口が篭もった、多分敬語を使い掛けたからだろうな。
まぁそれでも敬語なのは変わらないが・・・
だが、時間すらわからないのか・・・よし
「えとな、これが時計だ、でな、今の時間は6時だ」
俺はベッドの棚の上に置いてあった目覚まし時計を手に取ると今の短針の方を指差した。
ゼルは「はい」と言い頷く、そこで俺は「うん、でもいいぞ?」と言うとゼルは「?・・・うん」と答えた。
「で、だ、今は午後6時で、一日は24時間、0時から始まって、24時で一日が終わる」
「で、俺は明日6時に仕事に行ってくる、わかるか?」
「・・・・・・だ、大体わっ!」
少し動きが静止してたが、わかったみたいだ。
ふと、窓を見るともうすでにだいぶ暗くなっていた。
「で、この時間に見れるのがあの、夕焼けだ・・・もう落ちかけてるが」
「落ちかけている?」
ゼルは不思議そうな顔をして言った。
「あぁ、日が沈んで夜になるって事だ・・・まさか夜がわからないなんて事は」
「・・・ごめんなさい」
ゼルは少し眼に涙を溜めながら言った、当たり前の事を知らない・・・みたいな言い方した俺が悪いな
「いや、いいんだ、知らないなら知っていきゃいいだろ?」
俺はせめてと思い、頭を撫でて慰めた。
「はい・・・それで夜ってなんですか?」
「夜はだな、外が真っ暗になる、以上だな」
「・・・それだけ・・・です?」
ゼルはすごい呆気に取られた顔をして答えた。
「あぁ、それだけだ・・・なんだ?」
「あ、いえ、なんでも・・・ありがとうござ」
「ありがとう、だけでいい、わかったな?」
俺は少し腰を下げ、ゼルと目線を合わせて、笑顔で言った。
「・・・はい、ありがとう?」
そうするとゼルは恥ずかしそうに答えた、しかも疑問みたいな感じで。
「はっ・・・今はそれでいいよ」
俺はそう言うと荷物をまた持ち上げ、台所に置いた。
色々一気に買ってきちまったから冷蔵庫に入れねぇとな・・・♪
「えと・・・今がろくじ、よんじっごふん?」
ゼルは、目覚まし時計を持ち、今の時刻を(多分正確に)読み上げていた。
数字はあっちに居たときに、ミルに教えて貰ったから少しなら分かった。
「あ・・・今はろくじよんじっきゅうふん!」
「ごじゅっふんになりました!」
そういいながらゼルはヴェルに教えた。
「そうかそうか・・・ゼル、もう少し違う事したらどうだ?」
ヴェルは苦笑いで答えた。
多分、ゼルはここから先も言う気だろう・・・うん
「えっと・・・違うことってなんですか?」
ゼルは手に持っていた時計を棚の上に戻し、ヴェルの足下に来て言った。
「そうだな・・・」
ヴェルは少し考えた。
料理をさせるのは危ないし、かと言ってこの時間にこんなチビ歩かせるのは危ないし・・・
・・・そうだ、確か本棚の中に
そう考えつくとそこからすぐにある(部屋が狭いからでもあるが)本棚の中からとある一冊を取り出した。
「あったあった・・・うわ、ホコリだらけ・・・」
俺はそのホコリを窓側ではたき、ゼルに渡した。
「?・・・これは?」
「俺が昔、お前みたいな子供の時呼んでた絵本だ」
僕は真ん中に書かれている文字を見てみた・・・[赤い竜と青い竜]って書いてある。
「それでも読んでたらどうだ?」
「うんっ・・・もう読んでいい?」
僕は少しドキドキした・・・初めて読むのもあるけど、早く見てみたかった。
「あぁ、いいぞ〜、ただし、今は飯食べるときまでな?」
「うんっ!」
ゼルは元気よく返事をすると、テーブルの上に絵本を開き、ゆっくりと見始めた。
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