「あ〜・・・どっかに金でも落ちて・・・?」
相変わらずの土砂降りの中、冗談半分に道端を見ながら歩いていたら
何かの物体が倒れていた。
 
「なんだ・・・?」
俺は恐る恐るその物体に近づいてみた。
ぼっろぼろな服、全身傷だらけの体、所々鱗が剥がれている場所もある・・・竜人の子供みたいだ。
  
「っても、ひでぇな・・・」
軽く手首に手を当て、脈を確認してみた・・・
 
          ドクン・・・トクン・・・
 
なんとか、生きているみたいだ。
 
「・・・しょうがない、連れて帰るか・・・」
よいしょっ、とその子供の体を持ち上げる・・・異常に軽い。
持ってみると分かる、肉は最低限以下しかついてなく、かといって筋肉も殆どない。
まるで人形だ、これで生きているだけでも俺はすごいと思った
 
「・・・いそがねぇと、やばそうだな」
俺は、その子供を両手で胸に納め、雨に濡れないように前屈みになりながら走り、家へと向かって行った・・・
 
 
僕・・・死んじゃったのかな・・・?
 
さっきまで足、痛かったのに、もう全然痛くないや・・・
 
それに、なんだかとっても暖かい・・・なんでだろう?
 
神様が僕を抱っこしてくれてるのかな・・・
 
だとしたら・・・うれし――
   
 
        ――お・・・お・・・
 
・・・え?何、この声・・・
 
        ――おい・・・きろ・・・
 
きろ・・・?
 
        ――おい、起きろ!
 
 
「・・・・・・ふぇ?」
僕はゆっくりと瞼を上げた・・・死んだかと思ったら寝ていただけだったみたい。
・・・眩しい・・・ここは、どこなんだろう?
暖かいし、さっきまでの足の痛みも消えてるし・・・
 
「ふぅ、やっと起きたか・・・」
あ、さっきの声だ・・・ゼルはそう思い、声がする方を眼を擦りながら見る。
・・・狼人?だっけ、確か奴隷の人で居たような気がする。  
「ここは・・・?」
とりあえず、ぼーっとする頭の中から一番最初に出てきた言葉を発してみた。
 
「ここは俺の家だ、で・・・」
彼は色々と話してくれた、僕が倒れてた事、助けてくれた事、そして、看病してくれたこと。
ゼルはお礼がしたかった、でも、お礼ってどう言えばいいか、それすらゼルはわからなかった。
・・・体でお礼すればいいのかな・・・?
そんな事を思っていた時だった
 
「んで、お前の名前はなんだ?」
狼の人がそう、聞いてきた。
 
「僕は・・・ゼル・リーガルです」
僕は少しだけ名前を出すのに戸惑ったが、助けて貰った恩もある・・・
また、奴隷になるかも知れない、という事が頭をよぎりながら答えた。
 
「ゼルか・・・俺はヴェル・スパード、この国で鍛冶をしてる」
「鍛冶・・・!!!」
僕の脳裏にとある一つの物が浮かんできた。
・・・奴隷で居たとき、鱗を無理矢理破がされ、その部分に奴隷の証である「烙印」を押されたこと。
それだけではない、時には火で熱せられた鉄の剣を無理矢理腹に押さえつけられたこともあった。
 
「う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!・・・ぁ・・・」
「?!ど、どうした?!」
僕はその痛み、苦しみが甦る様な感覚に襲われ、無意識に泣き叫んでしまった。
だが、静かにしないとまた酷いことをされてしまう・・・その意識が深く根付いているせいで、すぐに泣くのを止めた。
 
「・・・おい、気をしっかり持て!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
ゼルは無意識に頭を下げ、何度も謝った。
「お前・・・!!」
俺はゼルの後頭部を見て愕然とした。
 
まるで、何度も何度も殴られた様な、そんなアザが数え切れない程あるのだ。
しかもそこの部位には本来鱗などが生えているはず、なのにこの子には鱗なんて無く、打撲痕と紫色になっている皮膚しかない。
・・・俺はここで確信を持てた。
 
俺は、ゼルの両肩をしっかりと持った。
 
「ごめんなさ・・・」
「もう、謝らなくていい・・・」
 
       「お前、奴隷だったんだな・・・」
 
ゼルはその言葉を聞くと、体がビクッ、と波打ち、ゆっくりと俺の方に顔を向けてきた。
 
       「お願いします・・・捨てないで・・・」
 
ヴェルは、その言葉を聞くと、ゼルの体を抱きしめた。
 
       「捨てねぇよ・・・辛かっただろう?」
 
ゼルはその暖かみがある言葉を聞くと、何故かすごいほっとして
 
       「う・・・うぅ・・・ぐすっ・・・えぐっ・・・」
 
自然と涙が溢れていった・・・なんでだろう、初めてあった人なのに、なんでこんなに安心が出来るんだろう・・・
僕は体を縮め、ヴェルの体の中に収まっていった・・・とっても、暖かい。
人って、こんなに暖かいんだ・・・
 
「ほら、もう泣くな、男だろう?」
そう言うとヴェルは僕を軽く、胸から離した。
 
「は・・・はい・・・」
ゼルは[言うことを聞く]というのが体に刻み込まれているせいで、すぐに泣くのを止めた。
 
「よし、いい子だ・・・さぁ、腹減ってるだろ?」
俺はゼルの頭を撫で、問いかけた。
 
「えっ・・・でも・・・」
奴隷で居たとき、ご飯はおろか、一日食べれないなんて日常茶飯事だった。
それで、一度檻の前に立っていた人に、ご飯を・・・と言ったら、思い切り蹴られてしまった。
それを、軽く思い出していた。
 
「ここはもう、お前が居たところじゃない、わかるな?」
 
「恐いなら恐いって言え、辛いなら辛い、寂しいなら寂しいって言え」
 
「そして、幸せだと思うなら、笑え、それだけでいい、わかったか?」
 
 
「・・・わかりました」
 
「あ、後敬語は無しな、家まで敬語だと疲れる」
 
「・・・はい」
 
「・・・わかってねぇだろ?」
ゼルは、少し笑った。


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