雨
「よし、ゼル〜風呂はいんぞ!」
ヴェルは洗い終わった食器を水切りかごに入れ、台所と居間の間の掛け布を片手で退けながら言った。
「・・・あ、はい!」
ゼルは少し瞼が閉じかけていた・・・眠かったのか。
「ねむてぇのか?」
俺はゼルに問いかけた。
まぁ・・・眠くても風呂にはいれねぇと・・・ってか、俺自身下手したら一週間入ってねぇよ。
「あ・・・だいじょぶうぅっ!?」
立ち上がって、二歩目辺りだろうか
・・・盛大にこけた。
「おいおい・・・大丈夫か?」
俺はゼルの所に行き、ぶっこけたゼルの前にしゃがんで見た。
「いたた・・・あ、はい、大丈夫です・・・」
そう言いながらゼルは顎の辺りを擦りながら起きあがった。
血も出てないみたいだし、大丈夫そうだな。
「っても、何もないところでこけるなよな・・・まぁいい、服脱げ〜」
そう言いながら、ヴェル自身も服を脱ぎ始めた、そして風呂の前にあるかごの中に入れていく。
・・・体は食べるものも余り買えなかったせいで贅肉は一切つかず、筋肉が程良くついている程度である。
「?・・・はい〜」
僕もヴェルさんが脱いでいるのを見て、脱ぎ始めた。
・・・ゼルの体はとにかく・・・
「・・・お前、傷だらけだな、やっぱ」
ヴェルはゼルの体を見ていった。
本来この歳位の子供だとまだ肉付きもいいんだろうが・・・本当にやせ細っている。
それに目立つのは火傷、無理矢理剥がされたであろう鱗、多数箇所にある打撲痕。
そして今気付いたが・・・左肩の付け根辺りの鱗が滅茶苦茶に引き剥がされ、そこに焼き印がされているのを。
「え、あ・・・これはいいんです・・・」
そう言いながらゼルは右手で焼き印を隠す。
「どうしてだ?」
俺はゼルの顔を見ながら言った。
「これは・・・僕が逆らったから・・・だから僕が悪いんです・・・」
「・・・一ついっとくが、お前は一切悪くない」
「え・・・?」
ゼルは呆気に取られたような顔で俺の顔を見あげる。
「お前がそこで逆らったのは、辛かったからだろう?そしてそれに反抗したわけだ」
ヴェルは半分裸で話し出した。
「辛かったら逆らうのは当たり前のことだ、それじゃないとそのままそれが続くわけだからな、それに、本来なら逆らってそこまでする奴なんざいねぇよ・・・だから、お前は悪くないし、悪いのはそれを強行した奴だ。」
「・・・まぁ、ぱっぱと言うと、さっさと風呂入るぞ、寒い。」
ヴェルは「ゴホンッ」と言った後、そう言った。
「え、あ・・・・・・はい」
ゼルは終始ぽかーんとしたままだった
台所の反対側の扉を開けると、そこには洗濯機や洗面台が置かれていた。
だが入ってすぐ、左側にある扉を開く。
「わぁ・・・あれはなんですか?」
ゼルは浴槽を指さし、俺に尋ねた。
「ん、あれが風呂だ、気持ちいいぞ〜!」
俺はそう言うと前に進んで蓋を取った。
昨日沸かして、保温だけは出来ていたみたいだ、熱さは丁度言い位に。
「よし、ゼル来い〜、浴びさせてやるよ」
「?はい〜」
俺はゼルが来ると、風呂場のイスに座らせた。
そして、桶でお湯をすくい、肩からゆっくり掛けてやった。
「・・・温かくて、気持ちいい・・・♪」
ゼルは少し背筋を伸ばし、気持ちよさそうに目を閉じる。
「だろ〜?後は・・・ほら、自分で体に擦ってみろ?」
俺はタオルにボディーソープをかけて、軽くお湯で濡らし、更に少しソープを伸ばしてゼルに渡した。
「あ、はい・・・わっ、泡だ泡だ〜♪」
腹に擦るとすぐに泡立ち、それを見るとゼルはすごい嬉しそうに笑った。
よほど好きなんだな、泡。
「ま、ちゃんと体洗って汚れ落とせよ〜」
俺はそう言いながらボディーソープを手に取り、直に毛に当てた・・・まぁ、タオルはひとつしかないしな
・・・さすが、毛のせいで泡立つ泡立つ、ついでに泡すら真っ黒って俺どれだけ・・・
「・・・ん〜♪」
・・・ゼルも、俺と変わらないぐらい黒い、そして、軽く血の色も混じっている
おそらく出ていたものじゃなく、多分体にこびり付いてたんだろう。
「さて、流すぞ」
俺はそう言うとまた桶でお湯を取り、ゼルに掛けた。
「ふぁ〜・・・泡が流れてく・・・」
何故かションボリするゼル、だが気にせず掛けていくヴェル。
この少しの間にヴェルは少しゼルの扱いがわかったみたいだ。
「・・・よしっ、風呂入って良いぞ〜」
俺はそう言うとマズルで浴槽を示した。
「うんっ・・・・・・すっごい気持ちいい!」
恐る恐る足から入っていたが、すぐに全身浸かった。
すごい幸せそうな顔をしてるな・・・色々扱いは楽そうだな、とヴェルは自分の体を流しながら思っていた。
「そうかそうか・・・さて、俺も入れてくれないか?」
俺も流し終わり、ゼルに言った。
「あ、はい・・・どうぞ」
そう言いながらゼルは浴槽の右側で体操座りをした。
俺は言わずもがな左側に浸かった・・・・・・瞬間に浴槽から勢いよくお湯が溢れた。
「うわ、勿体ねぇ・・・まぁ、しゃぁないか」
ヴェルはそう呟くと肩まで浸かり、ゼルの体を見る形になった。
・・・さすがにそこは竜人、アソコはスリット、縦筋が入っているだけだ。
だが、鎧竜人にしては鱗が薄く、ボロボロでもある。
そして角があったんであろう頭部には、荒々しく削り取られた跡がある。
・・・本当、どんな仕打ちをされてきたのか、考えるだけでも嫌になる。
「・・・どうしたの?」
ヴェルがじーっと見ていたのを気になったのか、少し首を傾げてゼルは聞く。
「んや、なんでもねぇよ・・・ほら、温まれ〜」
俺は少し視線を逸らして、言った。
戻る